どうも、さかなです。
「トレブルフック全盛の時代になぜシングルフックを使うのか?」
結論から言うと、
- 釣りが獲って食べるためのものではなく、純粋に釣りを楽しむものになり、リリース前提の釣りになった。
- であれば、ダメージの少ない道具を使うべき
- 釣りでもっともダメージを与えるもの、それはフック
- なので、トレブルフックじゃなくて、シングルフックを使おう!
と言う、流れを期待していた方、申し訳ございません。
私がシングルフックを使い始めたきっかけは全然別のところにあります。
今回はそのきっかけについてお話ししようと思います。
あれは今から20年ほど前、ちょうど2002-3年くらいだったと記憶しています。
当時、すでにD社やY社やF社などの錚々たるメーカーのテスターをやって、雑誌の表紙を飾っていた一回りも二回りも年上の仲間たちと、干潟でウェーディングをしていた時のこと。
当時は時代が良いこともあって釣りに行けばだいたい70アップでランカーも1-2本は混ざり、もはや80cm代のシーバスに有り難みはなく、90cmオーバーになって初めて自慢できる、そういう今では考えられないような大釣りをしていました。
そんなある年の秋、その凄腕連中であってもこれまでに経験のないサイズの魚が掛かってフックが伸ばされて獲れないと言うことが頻発しました。
仲間内では
「本当にシーバスなのか?」
「サメなどの可能性もあるのではないか?」
あまりに規格外の魚にそんな話をしているほどでした。
その真相を確かめるため、私は強いフックを探し始めました。
最初は青物用のトレブルフック。
これだと重すぎてルアーが全然泳がなかったので、最終的にジギング用のシングルフックにアシストラインを短めにつけてインラインシングルフックを自作しました。
当時は干潟で使えるシャローランナーがほとんどなかったのでルアーは自作、ロッドもアメリカからGLoomisのブランクを輸入して自作ロッドで釣りをしていたので、いよいよ針も自作なのかと仲間内からは揶揄されていました。
そして時は訪れます。
10月下旬の大潮。
上げに切り替わり30分ほど経ち、風向きはいつもの通り逆になり、干出した干潟に波が当たり音が大きくなっていくタイミング。
生命が動き始める気配は意外と神秘的ではなく騒々しいものです。
スリットに発生する流れに自作ミノー125を引いていたその瞬間。
バイトというよりは根掛かりに似たルアーを抑え込まれるようなアタリがありました。
90後半にもなるといつもこういうアタリなので慎重に竿で聞いてから鋭く合わせを入れます。
「ドババババッ!」
その重厚なエラ洗いの音から容易にモンスターサイズだとわかりました。
掛けてからはタックルがもう使い物にならない。
3000番の決して小さくはないリールのドラグがまったく機能しない経験などあれが最初で最後です。
何度も根に突っ込まれそうになり、それを交わしの攻防を10分ほど続けてようやく手中に収めました。
すっぽりと拳を収めてもまだ余りある口のサイズ。
魚というより犬とか猫などの獣のようなオーラがありました。
サイズを計測すると106cm。
人生初のメーターオーバー。
30年間シーバス釣りをやってきて東京湾で出会った最初で最後のメーターオーバー。
(いや、まだ二匹目狙ってるけど・・・)
釣れたルアーと針を真っ先に確かめました。
ルアーにはくっきりと残る歯形がありましたが、フックはまったく曲がっていません。
間違いなく「釣れた」ではなく、「釣った」と言える魚でした。
そして自分も仲間も確信します。
「大きい魚を確実に獲るにはトレブルフックじゃ弱すぎる」
シングルフックなら線径が太くてもトレブルのように重くならないからルアーのバランスも崩れない。
それから私の釣りはすべてシングルフックに替えました。
不思議と釣果が落ちることもなく、大きい魚はそれ以降も確実に獲れました。
もちろん50cm以下のシーバスはトレブルフックの方がノリもいいので、小さい魚の釣果は落ちますが、そもそも大物しか狙っていなかったので何も問題はありませんでした。
そして、シングルフックで釣りをする中でいくつかの利点に気がつきます。
- 魚にダメージが少ない
- 手返しが早い
- フック同士が絡まないからルアーを沢山収納でき、簡単に取り出せる
- 単価が安い
- アマモなどを拾いにくい
- トレブルから換装すると動きが良くなる
- 釣った魚からフックを外す時に手に刺さる危険性が低い
- 小さい魚の釣果は落ちるけど、大きい魚の釣果は上がる
「なぜみんなトレブルフックを使っているのだろう?
シングルフックで全然釣りが成り立つのだが・・・」
当然そんな疑問を抱くわけです。
それから幾年の月日が経ちシングルフックは完全に自分のスタイルとして昇華されました。
言うなれば散弾銃を持って、仲間と山に入り、獲物を打つのがそれまでの釣りだとしたら、
私のスタイルはたった一人で山に入り、ライフルで一撃で獲物を仕留める。
そんな釣りです。
矛盾しているようですが、獲物を仕留めるのにできれば傷は付けたくないし、美しい姿のままで仕留めたい。
それには散弾銃(トレブルフック)ではなく、ライフル(シングルフック)なんです。
そして相手は命懸けなのだから、己も命懸けで対峙したいし、人の褌で相撲は取りたくないので道具は自作して、動力などもフェアじゃないので使わない。
誰の情報も頼りにせず、道具は自作し、針はシングルフックで釣りをする。
難易度は上がるかもしれないけど、それが自分の美学となりスタイルとなりました。
あの時の魚の写真を見返すといつも思うことがあります。
東京湾とは思えない干潟に浄化された水の透明度。
写真でもわかるほどの尋常ではないサイズの魚。
半分水面に出ている顔と、月の明かりを水中で反射する鱗の鈍い光。
そして口に掛かっている自作ルアーにはシングルフック。
「か、かっけぇぇぇ・・・」
これがトレブルフックだったらその美しさは半減しただろうと。
人生でただ一度しか出会えないその魚と対峙した時、
その魚と一緒に写る道具は、美しいものであって欲しい。
そしてそのチャンスはいつ訪れるかわからない。
答えがあるとすればチャンスを掴めるのは事前に準備を怠らなかった者のみ。
その答えが私の中ではシングルフックなわけです。
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